FRBの最新見解と関税インフレへの対応
米連邦準備制度理事会(FRB)は、今後の金融政策において、関税が引き起こすインフレ圧力に対してどのような姿勢を取るのでしょうか。多くの市場関係者が注目する中、FRBはドットチャートや経済予測要旨(SEP)を通じて、その見解を明確に示しています。結論から申し上げますと、FRBは関税インフレを「無視」するのではなく、むしろ「一時的ながら顕在化するインフレ圧力」として慎重に見極め、利下げのタイミングを慎重に判断している状況です。
ドットチャートが示す利下げ見通し
2025年6月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で発表されたドットチャートは、FOMC参加者19人それぞれの年末時点のフェデラルファンド(FF)金利予想を散布図で示しています。このドットチャートでは、年内に0.25%の利下げが2回行われるという見通し(中央値3.875%)が維持されました。
しかし、注目すべきは、参加者間の意見が分かれている点です。7人の参加者が「利下げゼロ」、8人が「1回」、そして4人が「2回以上」の利下げを予想しており、FRB内部には慎重な見方が根強く存在していることが分かります。市場が早期の利下げを期待する一方で、FRBはより慎重な姿勢を崩していません。
SEP更新が示す関税ショックの織り込み
FOMCは、同時に発表した経済予測要旨(SEP)において、主要なインフレ指標である核心PCEインフレ率の2025年予測を3.1%に上方修正しました。これは3月時点の2.8%から引き上げられたもので、FRBが物価上昇リスクを明確に織り込んでいることを示唆しています。
指標 |
2025年予測(3月) |
2025年予測(6月) |
---|---|---|
核心PCEインフレ率 |
2.8% |
3.1% |
実質GDP成長率 |
1.7% |
1.4% |
失業率 |
4.4% |
4.5% |
この上方修正は、貿易摩擦による輸入コストの上昇がインフレ期待を押し上げる可能性を反映しています。FRBは関税インフレを無視するのではなく、むしろ利下げ幅を抑制し、状況を注意深く見守る姿勢を示していると言えるでしょう。
関税が押し上げるインフレ圧力の具体的な大きさ
FRB傘下のサンフランシスコ連銀が5月に公表したレポートによると、もし一律25%の輸入関税が消費財と投資財に完全に転嫁された場合、即時的な価格上昇が見込まれるとされています。
財の種類 |
価格上昇率見込み |
---|---|
消費財 |
2.2% |
投資財 |
9.5% |
この試算は、関税がすべて製品価格に転嫁され、他のマークアップ調整や需給調整が考慮されていないという仮定に基づいています。しかし、消費者物価(PCEベース)に年内に2.2%分の上昇圧力がかかる可能性があるという事実は、FRBがインフレ予測を上方修正し、利下げ回数を限定していることの合理性を裏付けています。
FRBの慎重な政策運営
FRBは、適切な金融政策を前提としつつも、関税ショックを「短期的な一過性」とみなす想定シナリオを持っています。しかし、2026年から2027年の政策金利見通しも上方修正しており、長期的にややタカ派寄りの姿勢を示しています。これは、関税インフレが一時的であるとしても、金融政策の自由度を狭める要因として重視している表れと言えるでしょう。
結論 関税インフレは無視できないリスク
FRBは、ドットチャートで「年内2回の利下げ」を維持しつつも、経済予測要旨(SEP)のインフレ見通しを上方修正しました。これは、関税による短期的インフレ加速リスク(2.2%想定)を織り込み、利下げ時期を後ずらしにしていることを意味します。
FRBは関税インフレを「一過性」とはしつつも、金融政策の自由度を狭める要因として非常に重視しています。したがって、FRBは関税インフレを無視しているわけではありません。むしろ、ドットチャートとSEPの更新を通じて、「関税ショックによるインフレ圧力を見極めつつ、政策の舵取りを慎重に行う」という明確な姿勢を示しているのです。
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