はじめに:リセッションの足音が迫る中で考えるべきこと
2025年6月、アメリカ経済においてリセッションのリスクが急速に高まっています。経済指標や金融市場の動き、消費者心理に至るまで、複数の面で減速傾向が顕在化しており、投資家にとってはこれまで以上に注意深い行動が求められます。
本稿では、現在のアメリカ経済の状況とリセッションを示す指標、そして投資家が今すべき資産運用の具体策について解説します。
経済指標が示す不安な兆候
最新のGDP成長率は年率換算でマイナスに転じており、2020年のパンデミック以来最も深刻な状況となっています。アトランタ連邦準備銀行のGDPNowモデルでも、今後のマイナス成長が示唆されており、「テクニカル・リセッション」の条件である2四半期連続のマイナス成長が視野に入っています。
加えて、トランプ政権の再導入した関税政策によるコスト上昇やサプライチェーンの混乱が、企業業績と消費活動に悪影響を及ぼしています。専門家の予測では、2024年の成長率2.8%から2025年は1.7%まで鈍化する見通しで、経済の減速が一時的ではない可能性が高まっています。
雇用市場のひずみと今後の展望
表面的には失業率は4.2%と安定していますが、自発的離職率が3カ月連続で低下するなど、雇用市場に陰りが見え始めています。これは従業員が将来の雇用不安を意識していることの現れであり、景気後退の初期兆候と捉えることができます。
加えて、雇用の伸びも鈍化しており、フィラデルフィア連銀の予測では2026年第1四半期には失業率が4.5%まで上昇する見込みです。企業が採用を抑制し始めている現状は、今後の家計支出や消費活動の縮小にもつながる恐れがあります。
インフレとFRBのジレンマ
インフレ率は2.4%とFRBの目標である2%を依然上回っており、企業活動や消費に影響を与えています。特に、関税政策が価格上昇を助長しており、インフレ率は2026年中頃には3.5%を超える可能性も示唆されています。
しかし、FRBは政策金利を4.33%に据え置き、慎重なスタンスを維持しています。景気の冷え込みとインフレ圧力の両立は「スタグフレーション」のリスクを高めており、金融政策は極めて難しい局面にあります。
景気後退を示す主要シグナル
以下の3つの指標が、現在の経済環境において特に注目されています:
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サーム・ルール:失業率の3カ月移動平均が過去12カ月の最低水準から0.5ポイント以上上昇した場合、景気後退とみなされます。現在は0.27%で、今後の推移次第ではリセッションの宣言が現実となる可能性があります。
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逆イールドカーブ:10年国債と2年国債の利回りが逆転している状態が続いており、これは過去60年間におけるほぼすべてのリセッションの先行指標とされています。
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消費者信頼感の低下:2025年5月のミシガン大学消費者信頼感指数は52.2、コンファレンス・ボードの期待指数は65.2と、それぞれ歴史的な低水準にあります。
投資家がとるべき資産運用の戦略
このような経済状況に対応するには、以下のような堅実で分散された戦略が重要です:
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資産の分散化:株式、債券、不動産、金、コモディティ、REIT、ヘッジファンドなど、複数の資産クラスを組み合わせることでリスクを抑制します。
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ディフェンシブ銘柄の重視:景気の影響を受けにくい食品、医薬品、電力・通信などの業種への投資が推奨されます。具体的には、コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、KDDI、パン・パシフィック・インターナショナルなどが候補に挙がります。
現金・債券・オルタナティブ投資のバランス
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現金保有:生活費3~6カ月分の現金を保持することで、緊急時の備えになります。ただし、インフレによる価値の目減りを考慮しすぎないよう注意が必要です。
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債券の活用:インフレ連動債(TIPS)や米国債を活用することで、ポートフォリオの安定性を高めます。
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金・代替資産:金は経済不安定時に強みを発揮する安全資産としての役割を担います。仮想通貨や商品インデックスなどの代替資産も、ポートフォリオのリスク分散に有効です。
感情に左右されない投資判断を
市場の変動が激しくなる中で、感情に任せた売買は避けるべきです。市場タイミングを狙う短期的な戦略よりも、長期的な視野に立った資産形成が安定した結果をもたらします。
リセッションは避けられない現象ではありますが、それにどう備えるかが資産運用の成否を分けます。今こそ、冷静な分析と戦略的な行動によって、長期的な安心と成長を目指しましょう。
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