アメリカ経済は2025年後半、大統領選後の政策転換、地政学的な緊張、国際的な金融・財政動向の影響を大きく受けながら、新たな局面を迎えています。とくに注目されるのは、金融政策を左右する「政策金利の行方」と、家計と企業に影響を与える「インフレ動向」です。
本記事では、政策金利の動向、インフレ率の高止まりリスク、経済成長率の変動、株式市場と企業収益、そして労働市場と財政政策の影響までを包括的に整理し、2025年後半のアメリカ経済の全体像を読み解いていきます。
FRBの政策金利は段階的な利下げへ
FRB(連邦準備制度理事会)は2025年の前半、FF金利(フェデラル・ファンド金利)を4.25〜4.50%に据え置きました。すでに引き締め局面は終了しており、今後は景気支援を目的とした利下げフェーズへと移行しています。
市場では6月、7月、9月にそれぞれ25ベーシスポイント(bp)ずつ利下げが行われるとの予測が有力視されており、年末には3.5〜3.75%まで下がる可能性が高まっています。FRBの当局者による経済見通しでも、年内の複数回の利下げがコンセンサスとなっています。
ただし、利下げペースについては慎重な姿勢が求められています。特にトランプ政権による追加関税が物価上昇圧力となりうるため、インフレ抑制とのバランスを取りながらの運営が続きそうです。
インフレ率は一進一退 基調的な高止まりが続く見通し
3月時点のCPI(消費者物価指数)は前年比+2.4%と前月からやや鈍化したものの、住宅費や食品価格、サービス価格の上昇により、インフレ圧力は依然として根強く残っています。
トランプ政権による通商政策の一環で、輸入関税が段階的に引き上げられる見通しであり、これが物価全体に対する上昇要因になると見られています。複数の調査機関では、2025年通年のCPI上昇率は+3.4%程度に達する可能性があると予想しています。
さらに、2026年に予定されている減税政策の影響で、個人消費の拡大が見込まれ、ディマンドプル型インフレが再燃する恐れもあります。FRB内部ではインフレ率見通しを2.5〜2.7%に引き上げ、引き続き警戒姿勢を強めています。
成長鈍化から回復基調へ 経済成長の波を読む
アメリカ経済は2025年前半には比較的堅調に推移しましたが、後半に入り、関税措置の影響や金利高止まりによる消費・投資の抑制が目立ち始めています。
第2〜第3四半期には、実質GDP成長率が前期比年率+1.0%前後まで減速する見通しですが、第4四半期以降は利下げの効果が徐々に波及し、住宅や耐久財消費の回復を通じて経済成長が再加速する可能性があります。
2026年に向けては+2.0%前後の成長軌道への回帰が期待されており、過度な悲観は避けられるという見方も出ています。
株式市場と企業業績は不安定な展開へ
企業業績は2025年第1四半期においても好調で、S&P500構成銘柄のEPSは前年比+13.3%と2桁成長を記録しました。特にテクノロジー、ヘルスケア、エネルギー関連のセクターが市場を牽引しています。
一方で第2四半期以降については、関税やインフレの影響、為替の変動により、業績見通しに対する慎重姿勢が強まっており、多くのアナリストが予想EPSを下方修正しています。
市場は金利動向に敏感に反応しており、利下げ観測が強まる局面では株価が上昇する一方、インフレ懸念の再燃時には売り圧力が高まるなど、ボラティリティの高い相場が続いています。
労働市場と財政政策のインパクトが拡大
連邦政府による財政引き締めと人員削減により、2025年には約5万9000人の政府系雇用が削減され、地方経済にも影響を及ぼしています。
また、移民政策の厳格化により、建設・農業・サービス業などの労働供給に支障が生じており、結果として人手不足と賃金上昇の圧力が混在する状況です。
2026年に導入される予定の大規模減税は、短期的には景気を押し上げるものの、中長期的には財政赤字の拡大と連邦債務の持続可能性に対する懸念を強めることが予想されます。金融政策と財政政策のバランスがますます重要になります。
今後の見通しと注視すべきポイント
2025年後半のアメリカ経済は、政策金利の引き下げ、関税措置によるインフレ圧力、景気減速懸念、企業業績の変動、そして財政政策の舵取りといった複数の変数が交錯する非常に複雑な局面です。
短期的な経済の腰折れは避けられないかもしれませんが、構造的な経済基盤は健在であり、柔軟で先見的な政策運営によって軟着陸も可能です。
今後注視すべきは、FRBの利下げペースとタイミング、インフレ率の推移、関税導入の実効性、企業の設備投資動向、そして中長期的な財政運営の健全性です。
2025年後半は、あらゆる経済指標と市場の反応に対して、投資家、企業、そして政策当局が敏感に対応しなければならない、極めて重要な時期と言えるでしょう。
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