失業率4.1%でも景気後退なし?最新BLS雇用統計を読み解く3つの視点から見えてくるアメリカ雇用市場の真実と今後の展望

BLS 雇用統計を読み解く 3 つの視点 米国経済
BLS 雇用統計を読み解く 3 つの視点

アメリカの経済についてと今後について考えていきたいと思います。今回は雇用統計を中心にです。


現在の雇用市場は安定的に推移しています

2025年6月のBLS雇用統計によりますと、失業率は4.1%となり、非農業部門雇用者数は前月比で14.7万人増加しました。この数値は市場予想の10.6万人増を上回る結果であり、アメリカの雇用市場が引き続き堅調さを保っていることを示しています。

過去12ヶ月間の失業率の推移を見てみますと、4.0%から4.3%という狭いレンジで推移しており、大きな変動は見られません。これは労働市場の安定性を示す重要な指標であると言えるでしょう。

視点1 サーム・ルール指標から見る景気後退リスクの評価

サーム・ルールは、失業率の3ヶ月移動平均が過去12ヶ月の最低値を0.5ポイント以上上回った場合に景気後退のシグナルとされる指標です。2024年7月には失業率が4.3%に上昇し、このルールが一時的に発動して市場に警戒感が広がったことがありました。

しかし、現在の状況は大きく改善しています。直近3ヶ月(2025年4-6月)の平均失業率は4.17%で、過去12ヶ月の最低値4.0%との差は0.17ポイントにとどまっています。これは0.5ポイントの閾値を大幅に下回っており、サーム・ルールによる景気後退のシグナルは発動していません。

2024年7月のサーム・ルール発動には特殊要因がありました。ハリケーン「ベリル」の影響で悪天候による就業不能者数が平年の同月比で大幅に増加し、一時的な解雇者数も増加していたためです。このため、当時の失業率上昇は構造的な景気悪化というより、一時的な気象要因による影響が大きかったと分析されています。

視点2 雇用創出の質と持続性について

アメリカ非農業部門雇用者数の月次推移を見ると、大きな変動があるものの、全体的には堅調な雇用創出が続いています。2024年7月から2025年6月までの平均は約16.7万人増となっており、これは健全な雇用創出ペースと評価できます。

2025年6月の雇用増加の内訳を見ると、政府部門が7.3万人増と全体の約半数を占めました。特に州政府の教育部門が牽引役となった一方、関税の影響を受けやすい製造業では7,000人減、卸売業では6,600人減となりました。これは貿易政策の影響が一部業種に現れていることを示しています。

失業率の低下には、労働参加率の動向も重要です。2025年6月の労働参加率は62.3%で、前月から0.1ポイント低下しました。労働参加率の低下が失業率改善に寄与している面もありますが、働く意欲のある人々が労働市場に留まっていることが重要であると考えられます。

また、フルタイムの職を希望しながらパート就業している人などを含めた広義の失業率(U-6失業率)は7.5%台で推移しており、雇用の質的改善も継続していると言えるでしょう。

視点3 賃金上昇圧力と物価動向への影響

2025年6月の平均時給は前年比3.7%増となり、前月の3.9%増からやや減速しました。過去12ヶ月間の平均時給伸び率は3.9%で推移しており、インフレ率を上回る実質賃金の改善が期待される水準を維持しています。

この賃金上昇ペースは、FRBの物価目標2%との整合性を保ちつつ、労働者の生活水準向上にも寄与するバランスの取れた水準と評価されます。急激な賃金上昇はインフレ圧力を高める可能性がありますが、現在の3.7%という伸び率は持続可能な範囲内にあると言えるでしょう。

初回失業保険申請件数が示す労働市場の底堅さ

労働市場の先行指標として注目される新規失業保険申請件数は、2025年7月12日の週で22.1万件と3ヶ月ぶりの低水準となりました。これは市場予想の23.5万件を大幅に下回る結果であり、企業の解雇動向が抑制されていることを示しています。

4週間移動平均も22.7万件と前週から改善しており、労働市場の基調的な堅調さが確認されています。

金融政策への示唆と今後の見通し

現在の雇用情勢は、FRBが掲げる「二大責務」である物価安定と最大雇用の両方において良好な状況を示しています。失業率4.1%は完全雇用に近い水準であり、平均時給の伸び率も過度なインフレ圧力を生まない範囲にあると言えます。

このため、FRBは急激な金融政策変更を行う必要性は低く、データ依存の慎重なアプローチを継続する可能性が高いでしょう。

結論 景気後退リスクは限定的

3つの視点から分析した結果、現在のアメリカ労働市場は以下の特徴を示しています。

  • 構造的安定性 サーム・ルール指標は0.17ポイントと閾値を大幅に下回り、景気後退シグナルは発動していません。

  • 雇用創出の継続 月次変動はあるものの、平均的には健全なペースで雇用が創出されています。

  • 賃金上昇の適正化 3.7%の賃金伸び率は、インフレ圧力を過度に高めることなく労働者の実質所得改善に寄与しています。

失業率4.1%という数値は、歴史的に見ても健全な水準であり、現時点では景気後退の兆候は限定的であると考えられます。むしろ、労働市場の安定的な改善が継続していると評価するのが適切でしょう。

ただし、貿易政策の影響が一部業種で現れ始めており、今後の政策動向や国際情勢の変化には注意深い監視が必要であると言えます。

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