関税収入223億ドルと4.5兆ドル減税、どちらが成長を押す?

関税収入223億ドルと4.5兆ドル減税、どちらが成長を押す? 米国経済
関税収入223億ドルと4.5兆ドル減税、どちらが成長を押す?

米国の関税と減税について考えていきたいと思います。

トランプ政権下で実施された経済政策は、その大胆さから常に注目を集めてきました。特に「関税の賦課」と「大規模な減税」は、経済に大きな影響を与える二つの柱として議論されてきました。これら二つの政策が米国経済にどのような影響を与えたのか、そしてどちらが長期的な経済成長をより強く推進するのかについて、具体的な試算を基に深く掘り下げていきます。

トランプ政権下の経済政策を読み解く タリフvsタックス その影響とは?

トランプ政権は、貿易赤字の是正と国内産業の保護を目的として、様々な品目に関税を課しました。一方で、企業や個人の税負担を軽減することで経済活動を活性化させる大規模な減税も実施しています。一見すると、歳入を増やす関税と歳入を減らす減税は相反する政策のように見えますが、それぞれが米国経済に異なる形で影響を及ぼしています。

関税による歳入増加とその裏にある経済的代償

2018年から2025年にかけて導入された一連の関税(セクション232、IEEPAなど)は、国庫に多額の歳入をもたらすと見込まれています。2025年には単年で約1546億ドル、2025年から2034年の10年間では累計で約1.7兆ドルもの関税収入が見込まれています。しかし、この歳入増加の裏で、米国経済には長期的な負の影響が及ぶと試算されています。

関税は貿易コストを上昇させ、これに対する報復関税は輸出入を減少させます。結果として、所得、消費、投資が抑制され、米国の実質GDPは長期的に約0.8%押し下げられると推計されているのです。関税による国庫収入は増えるものの、経済全体へのマイナス効果の方が大きいという点が重要です。

大規模減税がもたらす経済活性化のメカニズム

対照的に、TCJA(Tax Cuts and Jobs Act)の恒久化・延長による約4.5兆ドルの減税は、歳入を減少させる一方で、長期的な実質GDPを約1.1%押し上げると見込まれています。このGDP押し上げ効果の内訳は、個人減税が0.4%、事業減税が0.7%とされています。減税は、労働へのインセンティブを高め、資本形成を刺激し、ひいては消費と投資を拡大させる効果があります。これにより、税収減少の一部が経済活動の拡大によって相殺され、結果的にGDPを押し上げるというメカニズムが働きます。

財政乗数で見る関税と減税の経済効果比較

経済政策の効果を測る上で、「財政乗数」という概念が用いられます。これは、政府支出や税制の変化がGDPにどれだけの影響を与えるかを示す指標です。

  • 関税(歳入拡大): 100億ドルの増収あたり、実質GDPを約0.36%押し下げるという、強い「逆乗数効果」を持つとされています。これは、関税が経済活動を抑制する力が非常に大きいことを示しています。

  • 減税(歳入減少): 100億ドルの減税あたり、実質GDPを約0.024%押し上げるという「正の乗数効果」を持つとされています。減税は経済を刺激する効果がありますが、その規模は関税の逆効果と比較すると小さいと評価されています。

この比較から、関税による歳入増加が経済に与える負の影響が、減税による正の影響よりもはるかに大きいことが分かります。

長期的な経済成長への影響 成長を押し上げるのはどちらか?

経済成長を最優先する観点から見ると、減税と関税のどちらがより望ましい政策選択となるのでしょうか。減税は、資本ストックの増加と労働供給の拡大を通じて、持続的なGDPの押し上げをもたらし、純成長率をプラスに転じさせる効果が期待されます。一方で関税は、短期的に歳入を増やすかもしれませんが、長期的には所得と交易量の減少を通じて経済成長を抑制する要因となります。

結論 経済成長を優先する政策選択

以上の分析から、経済成長を最優先するならば、大規模な減税の方がプラスの成長インパクトが大きく、関税の拡大は成長の足かせとなる可能性が高いと言えます。関税は歳入を増やす一方で、貿易の縮小と経済活動の抑制を通じてGDPを押し下げます。これに対し、減税は歳入を減少させるものの、消費と投資を刺激し、長期的な経済成長を促進する効果が期待されます。政策立案においては、単なる歳入の増減だけでなく、経済全体への長期的な影響を考慮した上で、慎重な判断が求められるでしょう。

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