「One Big Beautiful Bill」減税でGDP+1.1%?財政赤字4.7兆ドル経済効果と財政への深刻な影響

「One Big Beautiful Bill」減税でGDP+1.1%? 米国経済
「One Big Beautiful Bill」減税でGDP+1.1%?

2025年7月4日の独立記念日に、トランプ大統領の署名により「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」が成立しました。この法案は、2017年の減税・雇用法(TCJA)の延長と拡大を柱とする大規模な減税法案です。しかし、その経済効果と財政への影響については、専門機関の間で見解が分かれており、議論が続いています。本記事では、この「One Big Beautiful Bill」がアメリカ経済にどのような影響を与えるのか、その詳細を深く掘り下げて解説いたします。

主要な政策内容と経済効果の分析

OBBBAは、第一次トランプ政権時の減税措置を恒久化し、さらに追加的な減税を盛り込んだ包括的な法案です。個人所得税においては、州・地方税(SALT)控除の上限が1万ドルから4万ドルに大幅に引き上げられ、チップ収入や残業代の非課税化も導入されます。法人税に関しては、100%ボーナス減価償却の復活や研究開発費の全額償却が認められるなど、企業活動を刺激する内容が含まれています。

この法案の経済効果については、複数の研究機関が異なる推計を発表しています。Tax Foundationは、長期的なGDP押し上げ効果を1.2%と見積もっており、これが「GDP+1.1%」という効果の根拠となっています。一方で、議会予算局(CBO)の動学的分析では、10年間の平均GDP押し上げ効果は0.5%にとどまると予測されています。Joint Committee on Taxation(JCT)も0.4%と推計しており、機関によって見解に大きな差があることが分かります。

財政への深刻な影響

経済効果の議論とは対照的に、財政面ではより深刻な状況が浮き彫りになっています。CBOの最新の動学的分析によると、OBBBAは今後10年間で財政赤字を3.4兆ドル拡大させると予測されています。これは従来の推計を上回る数字であり、追加的な利払い費の影響が大きく作用しているためです。

複数の機関の推計を総合すると、財政赤字の拡大幅は以下のようになります。CBO(動学的分析)は3.4兆ドル、Tax Foundationは3.8兆ドル、Penn Wharton Budget Modelは3.2兆ドル、Tax Policy Centerは3.0兆ドルと、いずれも巨額の赤字拡大を見込んでいます。特に深刻なのは利払い費の増加です。CBOは10年国債利回りが平均14ベーシスポイント上昇し、追加利払い費が4,410億ドルに達すると推計しています。これにより、GDP比の債務残高は現行法下の117%から124%へと上昇する見通しです。

債務上限問題と市場への影響

OBBBAには、債務上限の5兆ドル引き上げも含まれています。現行の債務上限36.1兆ドルに対し、当初案では4兆ドルの引き上げが検討されていましたが、最終的には5兆ドルの引き上げで決着しました。これにより、当面のデフォルト懸念は回避されたものの、長期的な財政の持続可能性への懸念が高まっています。

市場では「債券自警団」の動きも警戒されています。10年物米国債利回りの上昇は、投資家が政府の資金調達コストを押し上げることで、誤った政策を罰している兆候との見方もあります。また、外国人投資家の米国債に対する関心が既に薄れているとの警告もなされており、今後の市場の動向が注目されます。

長期的な経済・財政見通し

長期的な経済効果については、さらに慎重な見方が必要です。Tax Policy Centerは25年後にはGDPがマイナスに転じると予測しており、Penn Wharton Budget Modelも30年後には1.5%のマイナス効果を見込んでいます。これは、財政赤字の拡大が民間投資を圧迫する「クラウディングアウト効果」が長期的に経済成長を阻害するためであると考えられています。

財政面では、2054年までにOBBBAが債務を15兆ドル(恒久化された場合は31兆ドル)押し上げ、GDP比債務残高を172%(恒久化では190%)まで引き上げるとの試算もあります。これは第二次世界大戦時の106.1%を大幅に上回る歴史的水準であり、財政の持続可能性に対する大きな課題を突きつけています。

総括 成長効果と財政リスクのトレードオフ

「One Big Beautiful Bill」は、短期的には一定の経済押し上げ効果を持つものの、その効果は当初期待されたほど大きくなく、長期的には財政悪化による負の影響が経済成長を阻害するリスクが高いとされています。「GDP+1.1%」という効果も、最も楽観的なシナリオに基づく推計であり、実際の効果はより限定的である可能性が高いです。

一方で、財政赤字の拡大は確実であり、その規模は3兆ドルから4兆ドル台という巨額に上ります。これは年間約3,000億~4,000億ドルの財政悪化を意味し、既に高水準にある米国の債務状況をさらに悪化させる要因となります。今後、関税収入や歳出削減による相殺効果、さらには経済成長による税収増の実現が、この法案の成否を左右する重要な要素となるでしょう。

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